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2020.10.21

ロンシャン・ジャパン事例:全社を巻き込んだ顧客体験設計『4Dアプローチ』とは?

フランス・パリで創業し、世界各国で人気を集めるラグジュアリーファッションブランド、ロンシャン。日本の営業拠点であるロンシャン・ジャパンは、グローバルの新戦略に基づき、オムニチャネル強化の取り組みを進めることになりました。同社でマーケティングを統括する横島氏は電通アイソバーをパートナーに、『4Dアプローチ』という手法を用いた顧客体験(CX)設計を実施。全社を巻き込んで行った顧客視点の体験設計はどのように行われたのか、それがどのように売上に結びついているのか、横島氏と電通アイソバーの清水が語ります。

本社の戦略を、日本市場に合わせローカライズするというチャレンジ

――プロジェクト開始前にあった課題とは、どのようなものだったのでしょうか?

ロンシャン・ジャパン 横島さま(以下、横島):ロンシャンがグローバルで策定した新しいブランドの方向性や経営戦略を、日本市場に即した形で落とし込まなければならなかった点が最も大きな課題でした。

グローバルでは、世界に愛されるファッションハウスを目指すというメインミッションが掲げられ、ターゲット顧客としてミレニアル世代を取り込む方針を打ち出していました。併せて、OMO(Online Merges with Offline)やオムニチャネルの実現に向けたプロジェクトが本社(フランス・パリ)に立ち上がりました。

しかし日本の現状はというと、「ロンシャンはナイロンバッグのブランド」という認知が主で、本社の方向性とは乖離している状態でした。まっさらな状態からあるべき姿を作っていこうと決意しました。

――日本独自のアプローチが必要だったのですね。パートナーとして電通アイソバーを選ばれた理由はどこにあるのでしょうか?

横島:前職で一緒にお仕事をした経験と実績からです。そもそも日本では、CXの戦略設計をきちんと組み立て、デジタルとリアルを融合した360マーケティング施策まで落とし込むことができるプロフェッショナルファームはあまり多くないと感じていますが、電通アイソバーさんは別格だと感じました。そこで、今回も引き続きお世話になりたいと、真っ先に連絡をしました。

電通アイソバー 清水麻里子(以下、清水):弊社はCXデザインのプロ集団として、Discover、Define、Design、Deliverという『4Dアプローチ』という手法を用い、お客さまと共に顧客体験(CX)設計を進めていきます。Discoverでは問題の洗い出しを、Defineではあるべき姿の定義を、DesignとDeliverでは具体的な施策の設計と実現を行います。今回お話をいただいたとき、この手法が最適なのではと考えました。

①Discoverフェーズ:CX実現に向け問題の洗い出しからスタート

――『4Dアプローチ』の最初のフェーズ、Discoverでは具体的にどのようなことを行ったのでしょうか?

清水:Discoverで最も重要なのは、「現状を知ること」です。マーケティング、セールス、マーチャンダイジング、ロジスティクス、IT、トレーニング、カスタマーサービスの方々、さらには社長も対象に、7部門12名にインタビューを実施しました。これまでの業務や、それぞれが目指している方向性についてお聞きし、ロンシャン・ジャパンのビジネスを紐解きました。
インタビューだけでなく、事前に作成していたペルソナを使ってワークショップも実施。理想の顧客体験をカスタマージャーニーとして可視化しました。どこで顧客が離脱しそうなのか、いいブランドイメージを持ってくれていないポイントはどこかなど、ネガティブな部分も全て洗い出しながらビジネスオポチュニティ(ビジネス機会)がどこにあるのかを探り、理想の顧客体験を描きました。

――たくさんのスタッフを巻き込むことのメリットや、ポイントはどこにあるのでしょうか?

横島:スタッフは全員プロ意識を持って業務にあたっていますが、当初向いている方向性はバラバラでした。インタビューやワークショップでオープンに話してもらうことであらゆる課題が顕在化し、それらを整理することでロンシャン・ジャパンとしての共通の課題認識が生まれました。

清水:スタッフの皆様にお伝えしたのは、「徹底した顧客目線」。「こんな意見は通らない」「本社がOKと言わないかも」などの固定観念を捨てて、「ロンシャンの顧客ならどうあって欲しいか」を考えていただきました。

また、スタッフの皆様への言葉の伝え方なども気をつけました。たとえば、いきなりCXと言っても伝わりません。CS(顧客満足度)とどう違うのか、普段の業務とどう紐づくのかなど、できるだけ簡単な言葉で説明をさせていただきました。その甲斐あってか、スタッフの皆様それぞれが「自分ごと」して考えてくださった実感があります。

②Defineフェーズ:顕在化した課題をもとにアクティビティをロードマップ化

清水:Discoverの後のDefineフェーズでは、ワークショップで洗い出された課題をビジネス機会と捉え、どのような対応ができるかを精査します。結果的に30以上の施策やアクティビティをKPIと共に作成し、それらをグローバルのスケジュールと照らし合わせながら5年間のロードマップに落とし込みました。

――ロンシャン・ジャパン独自で策定したロードマップは、本社からすぐに理解を得られたのでしょうか?

清水:日本独自でなにかをやるには本社を説得する必要がありますが、Discoverフェーズで実施した調査をエビデンスとして事実に基づいた話をすることで、理解を得られました。我々もグローバルの戦略は常に意識していますし、要所要所での報告に同席させていただくなどのお手伝いもいたします。

横島:例えばペインポイント(改善すべき点)の1つだった、お客様が欲しいタイミングで商品の在庫がないことが多いという問題は、日本だけではなくグローバルレベルの課題だったので、本社のIT・システムチームと連携して解決に向けて動きました。また、新しいロンシャンのブランドイメージが日本のお客様に浸透していないことも問題だったので、日本のターゲット層に響くコミュニケーションでブランドの魅力を訴求する重要性について本社のマーケティングチームを説得し、ローカルコンテンツの開発についても合意を得ました。

③Design&Deliverフェーズ:徹底した顧客視点を崩さず、施策の実行へ

――Design、Deliverフェーズは施策への落とし込みと実行のフェーズですが、具体的にどのような施策を実施されたのでしょうか?

横島:このフェーズは現在進行系ですが、4月にローンチした『マイ プリアージュ®』という新しいパーソナライゼーションサービスでは、ローンチと同時に開始する全てのマーケティング施策が顧客にとって繋がったブランド体験となるよう設計を行いました。ローンチ時に行う予定だったイベントは新型コロナの影響で8月に延期となりましたが、ペルソナの設計など、根幹の戦略をきちんと顧客目線で策定していたことで、整合性や一貫性のある体験設計を迅速に行うことができました。

――戦略の軸があったからこそ、不測の事態にも柔軟に対応することができたのかもしれませんね。その他にも日本独自の工夫はありましたか?

清水:Discoverフェーズの顧客調査から、「何万通りもオプションがあると選ぶのが難しい」「自分のセンスに自信がないからスタッフに勧めてもらいたい」など日本人ならではのインサイトが得られていました。これは、海外のお客様との大きな違いです。

横島:なかでも『マイ プリアージュ® シグネチャー』は、文字を除いても720万通りのバリエーションがあります。公式オンラインストアでもフラッグシップストアでも注文はできますが、長い時間をかけて迷った挙句に購入に至らない状況が想定されたので、お客様のパーソナライゼーション体験を手助けするための施策を日本独自で取り入れました。

プロダクトやビジュアル・アイデンティティなどはグローバルで統一されていますが、どのようにローカルのオーディエンスを巻き込むかというソフト面は我々でデザインしたのです。

グローバルでは『マイ プリアージュ®』というサービスをご紹介した後、すぐにバッグをつくるシミュレーションサイトにいく導線が設計されていましたが、これをそのままやっても日本のお客様のインサイトには対応できていません。そこで、ランディングページ(LP)を作り、パーソナライゼーション体験のステップやインフルエンサーの着こなしをご紹介して興味を掻き立てるなど、エンゲージメントに繋がるコンテンツを間に挟みました。お客様が自分もやってみたいという気持ちになってから、実際に自分好みのバッグをデザインするシミュレーションサイトにいくという流れです。

――リアルイベントとはどのように連動させたのですか?

横島:イベント会場では、AI(人工知能)を活用したラッキーカラー診断をご用意し、自分にぴったりなカラーを選ぶヒントをご提供しました。また、イベントに足を運べないお客様向けに、LINEでもインタラクティブなコンテンツを作成しました。いくつかの質問に答えていくと、おすすめの組み合わせがメッセージとして届き、その情報をもとにオンラインでもストアでも簡単にオーダーできる仕組みです。

清水:LP、LINE、イベント会場のパネルなどのクリエイティブも統一したことで、一貫したブランド体験を提供できたと思います。

マーケティング施策が売上増に繋がる

――日本の顧客のインサイトをふまえた施策を実施したことによって、どのような成果が得られたのですか?

横島:イベント期間中はオンラインでもストアでも、売り上げが通常時より大きく上振れていました。オンラインもストアも巻き込みながら、全員でイベントを盛り上げていったという実感が得られました。イベントの目的はあくまでもビジビリティ、アウェアネス、インタレスト、エンゲージメントをドライブすることだったのですが、最終目的である売り上げという結果もだせたことは本当によかったと思います。

マーケティングファネルの上部から売り上げまでつなげることは簡単ではなく、売り上げアップを主目的とするのならやり方は違います。今回は、オンラインとストアとイベント会場とをうまく連携させることで、相互に成果がありました。

清水:LINEを見たお客様がそのまま購入するというパターンが増えました。それまでLINEが売り上げに結びつくことは少なかったのですが、セールと同レベルかそれ以上の売り上げがありました。LPからの流入も同様です。

――これまでを振り返った感想、それから今後の展望をお聞かせください。

清水:今回の『4Dアプローチ』では、全社的な一体感を持って進めることができたと感じています。横島さんがマーケティングを中心にあらゆる部門を横断してリーダーシップを発揮されていたことにも助けられましたが、たとえば、ロンシャンの全体会議の場で、顧客視点の考え方についてしっかりと説明できる機会をいただくことや、デジタルを活用してCXを提供する必要性を感じている方が多かったことも、プロジェクトの進めやすさに繋がりました。

横島:ゼロベースで、電通アイソバーさんと一緒に考えて進めることができ、ここまで来ることができました。手応えを感じていますが、まだまだこれからです。今後も、365日360度の様々なタッチポイントを使って、ひとりひとりのお客様にとってベストな体験を提供し、顧客体験価値を最大化するための取り組みを続けます。

横島愛弥 よこしま・えみ
早稲田大学法学部を卒業後、オリエンタルランド(東京ディズニーリゾートの経営・運営会社)に入社。テーマパーク事業戦略、WEBマーケティング、投資家向け広報などに従事。アメリカのケロッグ経営大学院でMBAを取得後、スペインのインディテックス本社(ZARAの親会社)にて新規テクノロジーの導入プロジェクトをリード。コーチ・アジアのデジタルマーケティング責任者としてデジタルシフトを主導した後、現在はロンシャン・ジャパンのマーケティング責任者として、PR、メディア、デジタル、Eコマース、CRM、セールスプロモーションを統括。

○ライター : 末岡洋子
○カメラマン: 八田政玄

清水 真理子 Mariko Shimizu

グローバルビジネス部 ユニット1 アカウント エグゼクティブ
日本IBMでキャリアをスタート。ITソリューションサービスの営業として、金融業界を中心に幅広いクライアントを担当。特に企業の働き方改革の中心となるワークプレース最適化に寄与するプロジェクトをリード。電通アイソバーに入社後はロンシャンをはじめ外資系クライアントを中心にアカウントマネージャーとして従事。CXを起点としたマーケティング・コミュニケーション領域に関してコンサルテーションからエグゼキューションまで様々なプロジェクトを推進。

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