メインコンテンツに移動

2021.04.02

ペイシェント・セントリックの視点がビジネスを変革させる〜CX時代のヘルスケア×デジタルマーケティング〜

「ヘルスケアの領域にデジタルマーケティングの視点が加われば新たな価値が提供できるのではないか?ー」2020年この発想を元に「HACS(Healthcare And Customer Solution)」)の提供を開始しました。

その具体的な取り組み内容や過去の事例などを伝えるべく開催したのが、「ペイシェント・セントリック(患者中心)な視点がビジネスを変革させる。CX時代の”ヘルスケア×デジタルマーケティング”」というウェビナーです。本稿では、その内容のうち、実施のプロセスや事例のほか、事業者のみなさまから寄せられる質問についてご紹介します。


HACSのサービスや取り組みについて

電通アイソバーが蓄積してきたマーケティング業界の知見や生活者視点で施策を検討・実施してきた実績を、医療・メディカル業界が培ってきた患者への目線と組み合わせ、2つの視点から患者の課題を多面的に捉えることができれば最善のコミュニケーションを生み出すことができるーーそのような考え方で生まれたHACS。

この取り組みの中で電通アイソバーが提供できる価値は、主に次の3つに集約されます。

1.    データによるUNKNOW NEEDSの可視化
2.    FRICTIONLESSなUX設計
3.    ペイシェント・ファーストのCREATIVE

特に、患者自身が治療を続ける中で、「こういうものだから仕方がない」「今までもこうされてきたのだから、自分も“決まった形”に合わせていこう」と、固定概念として受け入れていることや、患者自身が未だ見えてないニーズを洗い出し、オンライン・オフラインを問わず治療を伴う日常にシームレスに溶け込むサービスを設計し、患者=生活者に寄り添ったコミュニケーションを開発していくことをお約束しています。

● HACSの概要についてはこちら
CXの発想で新しいヘルスケアソリューションを目指す! 〜患者の「より良い暮らし」を支える電通アイソバー「HACS -Healthcare And Customer Solution-」〜

患者を中心としたコミュニケーションを検討するにあたり、HACSのストラテジストやクリエイティブディレクター、アナリスト、プロジェクトマネージャーといったチームメンバーが製薬会社や医療に関わるクライアント企業と一緒に行なうのが次のプロセスです。

とはいえ、上図のプロセスのうち「調査」は、ヘルスケア産業ではこれまでも入念に繰り返されてきたものです。しかし一方で、「調査データを部署ごとに取得していて、内容にバラつきがある」「グローバル実施の調査で、ローカルのインサイトがいまいち拾い切れていない」または「薬機法やAE報告等のルールで患者のリアルな調査データを揃えることが難しい」といった課題を耳にすることもありました。

HACSでは、コミュニケーション設計の軸となる調査が生きたデータとなるように既存のデータに加えて必要になる新しい情報を整理し「仮説の共通認識」をしっかり行った上で、現状整理から患者に最適な体験の設計、その施策実施や効果測定までを一気通貫でサポートできる体制も整えています。

そのほか、今日のヘルスケア領域では波及する範囲やニーズが広がっていることを受けて、電通アイソバーに限らず、様々な調査会社や専門性の高いコンテンツ制作を担うメディカルライターや患者団体との連携、グローバルに展開するisobarグループの力も含めて柔軟にチーム編成ができるよう準備を整えています。

ヘルスケア領域の社会課題をCo-Creationで解決する事例

では、上記のようなフレームワークを利用して、どのような取り組みが可能なのか? ここでは、コニカミノルタ株式会社Business Innovation Centerが新規事業として立ち上げたニオイ見える化チェッカー「Kunkun body」の事例を挙げてご紹介します。

● CASES 生活習慣臭啓発プロジェクト
“スメハラ問題”の解決に貢献すべく、あたま・耳のうしろ・わき・あし・くちのニオイを測定し、3大体臭である加齢臭・ミドル脂臭・汗臭の見える化を実現した「Kunkun body」。発表当初から大いに注目され、2017年にはクラウドファウンディングで応援購入約4800万円超を集めたほか、各種メディアでも多く取り上げられるほど画期的なアイテムとして話題になりました。

しかし、正式発売から1年経過した2019年。事業の成長による課題の変化に対し、「具体的にどこを改善すればいいのか?」と、次の一手を模索していた事業のマーケティング担当者様より電通アイソバーにお問い合わせをいただきました。

前掲のHACSにおける1〜6のプロセスのうち1つ目の「仮説を立てる」というフェーズで行なった現状整理の際、議論の中で立ち返えることになったのが、コニカミノルタ様の経営理念である「新しい価値の創造」です。

経営理念をもとに「Kunkun body」を用いて嗅ぎ分けるニオイの意味付けを「新しい価値」にするにはどうすればいいか…? 議論を重ねるうちに出会ったのが、桐村里紗氏の著書『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学(光文社新書)』に記された、「ニオイ」は健康のバロメーター、という考え方でした。

著書によると、「人間の体のニオイは、体温・体重では大きく反応しないケースも、生活習慣に影響され敏感に変化する」とのこと。その考え方と、今日の社会課題である「人生100年時代、健康寿命」とを掛け合わせ、改めて「Kunkun body」によってどのような価値をもたらすことができるのかを検討した結果、たどり着いたのが次の課題とその解決方法です。

こうして「Kunkun body」は、スメハラ問題に貢献するブランドから、ニオイから健康習慣をデザインするブランドへと進化し、社会課題である「人生100年時代、健康寿命」に貢献する、という新たな価値創造ができました。
しかし、この取り組みを世の中に広めるには、新しい価値・概念を世の中へ発信、定着させるため、それを言語化し、社会記号化することが重要となります。

そこで、“生活習慣臭”を社会記号化するため、コニカミノルタ様のBusiness Innovation Centerと広報部と電通アイソバーがCo-Creationし、PR発表会を実施。さらに、社会を巻き込んだ取り組みとすべく、ドライバーとなるブランド・団体ともオープンコラボレーションすることで強力な巻き込みを実現しました。

2020年からはその活動をさらに拡張させ、VSC臭を測定する歯科医院専門製品「Kunkun dental」を発売。「人生100年時代・健康寿命」としてオーラルフレイルの重要性を訴求し、生活習慣臭啓発プロジェクトとして発信することで、より強い歯科来院のきっかけを創出するよう取り組んでいます。

このように、新製品単体のプロモーションではなく、経営理念から社会課題の解決へと挑戦するプロジェクトとしてより高い視座に立った展開を実践することで、社会への波及力はより強いものになると考えられます。

Health Care × CX Design 患者視点で生み出す、ソリューション事例

前出の「Kunkun body」のように多くの人が関わる健康課題だけでなく、ウェビナーでは希少疾患を持つ人に対するコミュニケーションをいかに強化したかについても例を挙げて紹介しました。

特定疾患の中には、医学の飛躍的進化に伴う治療薬の開発によって、完治はまだできないけれども長期療養が可能となった疾患は少なくありません。HIV疾患はその代表例と言えるでしょう。

効果的な抗HIV薬による抗ウイルス療法を受け、毎日欠かさず薬を内服し続ければ多くの場合およそ1〜6か月後には血液中のウイルス量が検出限界値未満に減少するようになったHIV疾患。だからこそ、今日では、薬を飲み続ける必要がある患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上を考慮した治療方針が重要視される時代になっています。

そうした治療法の変化と合わせて現在課題とされているのが、「患者自身が能動的に長期治療について考える気持ちをどう後押しするか?」ということです。長期を見据えた治療を選ぶということは、今は安定した状態だったとしても将来的にさらに良い治療法を選択する機会を広げるなど、患者のより良い生活を後押しすることにつながると考えられます。

このプロジェクトにおいて、電通アイソバーが取り上げたのは以下の3つのポイントでした。

1. 患者の解像度をあげる重要性
2. 患者のニーズをサポートする事が、ビジネス課題と直結しない場合の戦略
3. 患者視点でのコミュニケーション戦略の結果

まず、課題解決の糸口として注目したのが「患者とのコミュニケーションの接点を強化すること」です。特に、潜在化している患者との接点を作るため、そのニーズに適した情報を提供することで情報を求めているユーザーをサイトにエスコートし、適切な情報を効率的に伝えられるのではないか、と考えました。

しかし、HIV疾患に限らず難病疾患を持つ患者に向けて心を動かすCX(顧客体験)デザインを設計する上で、本当に患者の真のニーズは反映されているのか? 「なぜ患者はこのような悩みを抱えているのか」を検討することが重要ではないか? 治療ステージを分けずに「患者」を一まとめの存在として捉えていいのか? 患者はその解決法を能動的に探していると言って間違いないのか? といった新たな疑問が浮かんできました。

そこで、ターゲットを絞ったアンケート調査を設計。患者へのDepth Interviewも実施し、「患者とは、どんなひとか?」について、より深く理解するよう努めました。

その結果、見えてきたのは次のような真のニーズです。

こうして患者の解像度をあげて真のニーズを把握した結果、そのニーズを満たすこととビジネス課題とが直結しない、という新たな問題にも気付くことになりました。

しかし、ここで施策を諦めるのではなく、視点を変えて、「患者目線で描いたジャーニーに合わせて患者のニーズと、提供できる情報の紐付け方をクリエイティブにアプローチする」ことで、ニーズを満たしつつビジネスにも貢献する方法を次のように検討・実施しました。

結果として、患者視点でのコミュニケーション戦略は受け入れられ、新たにコンテンツを拡充する前に比べて次のような成果につながりました。また、これがきっかけとなってビジネスにも良いインパクトを生み出すことができました。

HACSに関するQ&A

HACSの発想や概要のほか、HACSで提供するプロセスを用いた2つの事例を紹介する中で、ウェビナーに参加したみなさまからは多くのご質問をいただきました。ここからはその内容の一部をご紹介します。

Q1, HACSの1〜6のプロセスは必ず踏まなければならないものなのか? どこか部分的にまずはやってみることは可能か?

1〜6までのステップはあくまで理想形です。プロジェクトによって1〜6のうち途中のステップから取り組みを始めることもあれば、「最初は調査の部分だけサポートしてほしい」といったご要望に対応することは可能ですし、このような形でご依頼いただくことも多々ございます。
しかし、電通アイソバーとしては1〜6までのステップすべてについてサポートが可能であり、長期的に一緒に取り組んでいくことで価値が高まると考えています。

Q2, 薬機法のように業界固有の課題もある。これを考慮して患者とのコミュニケーションを検討してもらえるか?

HACSは、コアとなる電通アイソバーのチームメンバーだけでなく、電通メディカルなど業界に特化したチームや外部団体などと柔軟にチームを編成し、プロジェクトに対応できるよう体制が作られています。
そのため、施策等について薬機法に抵触するなど大きな問題がない状態でご提案することができます。ただし、実施可否については企業様ごとの法解釈に基づいて判断いただくことが多いように思います。

Q3, 患者視点のコミュニケーションだけでなく、医師やMRを中心としたコミュニケーションも検討してもらえるのか?

HACSではこれまでヘルスケア領域のみなさんが培ってきたアプローチの仕方や医師・MRの方々の視点を取り込むことの重要性を十分に理解しています。同時に、患者を中心にしたコミュニケーション同様、医師やMRを中心にしたとしても、彼らを一くくりに考えるのではなく、どのようなニーズやインサイトがあるのか、丁寧に紐解くことが重要だと考えます。
ただ、患者を中心に据えたコミュニケーションを考えたとしても、そこには医師やMRの方々の存在が必ず出てきます。また、患者のインサイトを深掘りすることで、MRの方々に役立つ営業ツールを作ることができたり、医師の方々に気付きとなる情報を提供できたり、といったことも考えられるでしょう。
いずれの場合でも、現状のペインポイントを明らかにすることが欠かせないことであり、そこから最良の施策を見つけ出せるように、と考えています。

Q4, 慢性疾患や中長期に対応する事柄だけでなく、急性疾患にも対応できるものなのか?

確かに慢性疾患をもつ患者とのコミュニケーションは長期にわたることが多く、生活に密着するため、私たちがご提案するHACSの1〜6までのプロセスとは相性がいいと言えます。
しかし、急性疾患への対応も可能です。課題を解決することには変わりがないので、どこにどのような課題があり、解決方法はどのようなものか、一緒に紐解いていきたいと考えます。

Q5, オンラインでの施策となれば高齢の患者へのコミュニケーションが疎かになってしまうことも…。オンライン/オフラインを問わず施策を検討し、実施していくことはできるか?

今日、どのようなコミュニケーションもデジタルの施策だけでは物事が完結しないようになっています。事例でもご紹介した通り、オンラインでのコミュニケーションだけでなく、企業広報部と連携したイベントや患者コミュニティとの連携に必要なオフライン資材(紙のパンフレットなど)を制作することもあり、その根幹には「どのように点と点を結んでより良いコミュニケーションを実現するか?」という考え方があります。
ターゲットとなる患者がどんな生活を営んでいるか? また、レスパイトケアのためのベストなソリューションはなにか? ということを考え、患者の心と気持ちに寄り添う取り組みをご提案してまいります。
その際、最新のテクノロジーを用いるにしても、利用者がより生活の中で自然に取り入れられるように細かいUXのチューニングを施したり、現場の状況や生活の中になじむ媒体として長く親しまれている紙媒体やイベント展開をしたり、といったことを多角的に検討していきます。
このように、電通アイソバーのHACSは、顧客一人ひとりとブランドが繋がり続けるためのCX(顧客体験)の提供を続けてきた「CXデザインファーム」としての知見を生かし、データとクリエイティブの力で患者視点の新しいヘルスケアソリューションの提供を通じてヘルスケア領域に貢献していきます。

前田 千広 Chihiro Maeda

CXストラテジー1部 部長
2003年より大手Web制作会社にてデジタルマーケティングの戦略立案、プラットフォーム開発、UI/UX、 PDCA設計をサポート。その後は事業会社にて新規事業のサービスデザインを担当し、メディア/アプリサービスの事業立ち上げやオムニチャネル/CRM/UXの責任者を担当。2017年よりDentsu Isobar参画。CXストラテジー部長。現在はデジタルトランスフォーメーションをCo-Creationで実現すべく戦略コンサルティング、CX設計、ワークショップ、調査・分析等幅広く担当している。

記事一覧

神松 あや Aya Kamimatsu

CXストラテジー1部 プランニングディレクター
“心地よいテクノロジー”をモットーに、デジタルマーケティングのディレクターとしてキャリアをスタート。コミュニケーションストラテジーの設計とプランニングを強みとし、現在はエクスペリエンスデザイナーとして、エンターテイメント、ファッション、教育、Fintechなど国内外の様々な企業のCX Designをリード。直近は医薬品業界を主軸として、〝ペイシェント・セントリック〟な視点で、ヘルスケアのNew Normal創造を目指す。

記事一覧

相原 孝文 Takafumi Aihara

クリエーティブ部 クリエーティブディレクター
デジタルマーケティングを基軸とした、事業クリエイティブ(ビジネスデザイン・サービスデザイン)から、それを具現化するブランディング、プロモーションまで一気通貫したマーケティングデザインを行う。
マーケティング4Pとデジタルマーケティングの融合を信条に、「新規事業」や「コモディティ化が深刻化したブランド」へ対し、事業の仕組み・戦い方をクリエイティブする根っこ型ソリューションを手掛ける。

記事一覧

田中 扶美子 Fumiko Tanaka

CXストラテジー1部 シニアプランニングディレクター
クリエーティブの力でたくさんの人を笑顔にしたい、という思いを胸にグラフィックデザイナーとしてのキャリアを米国でスタート。Interbrand (米国)、Godfrey Dadich Partners (北京) で計12年キャリアを積んだ後、2016年よりDentsu Isobar参画。企業ブランディングの経験を活かしたデジタルマーケティング戦略を得意とし、プランナーとして、ターゲットの真のニーズを捉えた企画戦略、長期的なビジネスへの貢献も視野にいれたコミュニケーションプラン・コンテンツ開発などに取り組む。

記事一覧

CX UPDATES TOP