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2021.03.03

Web解析はここまで進化・退化した(後編):コロナで迫られる意識改革

本連載は前編中編の2回に分けて、顧客の人権尊重という歴史の流れを受けてブラウザやプライバシー対策が進化してきた過程と、それを受けたアナリティクスの位置付けや機能の変化について整理しました。 今回はさらに、来るべき変化に備えてアナリストやマーケターが今からすべきことを3点提案することで、連載を締めくくりたいと思います。 まずは前回の続きから。シフトが進む顧客起点の分析アプローチと機能の変化として、見直しが進むページビューの考え方と、ブラウザやデバイスを超えて同一人物を特定する試みを紹介しました。

(3)広告やページから「人間」軸へのシフト

データの単位に関する4つの変化のうち中編でご紹介した変化に加え、3点目の変化は、人を軸としたデータ取得や分析ニーズの高まりです。

従来型の分析では、「先月」「先週」といった一定期間におけるデータの集計が一般的です。企業側の変化である成果(売上やリード件数)や施策の努力量(訪問者数やクリック回数)を確かめるのが目的であれば、期間を固定するのは問題ありません。企業の目標や施策は週や月、期、年といった単位で計画的に実行されるからです。

ところが、マーケティングや接客の結果として「訪問者や顧客はどう変わったのか」を理解するには、一律の期間設定は不適切です。顧客は一人ひとり異なる人間であり、企業と接する体験が始まるタイミングも、その後の継続性も、企業が望むように応じてくれるかも、企業はコントロールできず、人それぞれです。期間を固定してデータを取得すると、体験の一部が欠損した部分的なデータになってしまいます。

「人」を軸としたデータを取得し、人それぞれの「体験」の全体像を理解するには、顧客が企業と接する最初のタイミングから現在に至るまでの長い期間を対象とし、「購買」や「お問い合わせ」といった企業都合のコンバージョンだけでなく、その前後の行動も対象とし、総合的に行動や習慣、心理の変化を捉える必要があります。

そのような「人」を軸とした分析手法の一つが「コホート分析」です。コホートはローマ時代の用語で、軍隊の編成の単位を意味します。同じ特徴を持つ集団である「コホート」を定義し、時間の経過とともにどう行動や意識が変化していったのかを分析します。

シリコンバレーのサブスクリプション型サービスにおける分析でよく使われるようになりました。

このレポートを作るためには、以前はカスタムディメンションなどを使って複雑な処理をする必要がありましたが、Adobe Analyticsには2013年10月に、Googleアナリティクスには2015年2月にコホートのレポート機能が標準装備されました。

デジタルマーケティングでは新規顧客のリテンション(定着)を調べるために使われることが多く、Googleアナリティクスのコホートレポートもその用途に限定されていましたが、本来は「メールを購読した人は継続的にサイトを再訪問しているか?」「SNSから新規訪問した人は自らもコンテンツをSNSでシェアするようになるか?」「初めて購入した人は継続的に商品を検討しているか?」といった分析にも有効な分析手法です。そのため、Adobe Analyticsや新しいGA4のコホートレポートでは、コホートへの参加条件とリピートの定義を変更できるようになっています。

さらに2016年には、画面上で一人ひとりの行動履歴を確認できる「User Explorer」レポートがGoogleアナリティクスに追加されました。

これは、一人ひとりの行動の履歴を追うためのレポートです。前述の理由で、レポートの期間を左パネルの「集客 日付」に書かれた初回訪問日を含めた期間に設定し、「昇順」で並び替えて、最初の訪問からの全ての行動履歴を追うと良いでしょう。

新しいGA4でも、このレポートは残っています。

一方、Adobe Analyticsには、これに相当するレポートは存在しない(以前はJavaアプリ版の分析クライアントソフトで利用できたが廃止されました)ので、データを抽出して自作する必要があります。

以下は、TableauでGAのユーザーエクスプローラを再現した例です。

画面左の一覧からユーザーを選択すると、右側に時系列の行動ログが表示されます。

通常のユーザーエクスプローラでは、注目すべきユーザーを選ぶのが難しく、ランダムで無作為な調査になりがちなので、ユーザー一覧には顧客体験を把握するための各種CX指標を追加しています。

●CX指標の例
 累積訪問日数:サイト訪問日の数
 サイト利用期間:初回訪問日から最終訪問日までの期間(日数)
 訪問R値:最終訪問日から現在までの経過日数
 自発訪問回数:自然検索からのTOPページ訪問、公式メルマガ経由など、能動的・意識的にサイトを訪問した回数
 訪問加速度:初回訪問の後、再訪問の間隔が伸びているか、短くなっているかの変化を表す指標
 検討スコア:商品やサービスの紹介ページで写真拡大やタブ切り替えなどの検討アクションを行った回数
 ブランド網羅性:掲載している全ブランドのうち何%のブランドを閲覧したことがあるか
 コンテンツ種類数:閲覧したことがあるコンテンツタイプ(ブログ・用語集・サービス案内・会社案内・FAQなど)の種類数
 精読記事数:10秒以上かけて最後まで精読したコンテンツの数(重複を除く)

右側の行動ログも、URLからパラメータや「index.html」を除去する、「ページタイトル|電通アイソバー」のようなタイトルからサイト共通の部分を除去する、ページのタイプを分類する、アナリティクスでは設定していないコンバージョンを後付けで設定するなど、目視で分析しやすくする調整が可能です。

(4)ページビューからイベントへ
4点目の変化は、ページビューからの脱却です。前述の通り、ページビューは「ブラウザがサーバーからの応答を受信し始めた回数」を表す数値でしかありません。人の体験を包括的に理解するために把握すべき行動は他にもたくさんあります。

画面に表示させるコンテンツを変化させるためにページをサーバーからロードし直さなければならなかった時代は、ページビューだけでもWeb上の行動を把握できましたが、Webがアプリのようにインタラクティブになっていく過程で、ページビュー以外のデータも取得できるようにデータモデルが拡張されていきました。

GAで計測されるヒットの構造は、図のようにフラットで場当たり的なものになっています。

一方、新しいGA4では、ページビューはイベントの一つとして格下げされ、ページ名(URLパス)は「そのイベントはどのURLが表示された状態で発生したのか」を確認するためのパラメータとして格上げされました。

「イベント」については、Googleが業種ごとの推奨イベント例を提示しています。

業種に関わらず共通の推奨イベント https://support.google.com/analytics/answer/9267735
●    search:サイト内検索
●    share:コンテンツのシェア
●    sign_up:会員登録
●    login:ログイン
●    purchase:購入完了
(など)
EC向けの推奨イベント https://support.google.com/analytics/answer/9268036
●    view_item:商品閲覧
●    add_to_cart:カートへ追加
●    refund:返品
●    generate_lead:問い合わせ完了
(など)

ただし、現時点では、まだ網羅性が低く、命名規則にも一貫性がない、中途半端な表になっています。

イベントの捉え方に関しては、Adobeの方が将来を見据えていて、包括的で先進的です。顧客体験の構成要素をデータ化する方法の標準化を目指して、「Experience Data Model(XDM)」を2017年にオープンソースで公開しました。顧客が企業とインタラクションする体験を表すデータを「プロファイル」と「イベント」に大別し、さらに構成要素に分解して構造化した拡張可能な標準スキーマをJSON-LDで定義する、という野心的な取り組みです。

例えば、定期購入の購読開始を表すイベント「subscribe」は、以下のような構造が標準スキーマとして定義されています。

誰(subscriber)が、どの端末(device)を使って、どのネットワーク環境(environment)で、何(カテゴリ・商品番号)を、どのように(定期の間隔・課金開始日・決済手段など)購読開始するのか、を構造的に記述できます。このうち、購入者(subscriber)は「Person」(人)という汎用的な構造を継承しているので、名前(姓・名・敬称などに分解される)や誕生日、性別など、人に紐づく属性で構成されます。

変化に備えるために今後すべきこと

以上、前編・中編・後編に分けて、Webの進化の歴史を振り返りながら、アナリティクスの進化と退化について整理してきました。最後に、アナリストやマーケターに求められること、今すべきことをいくつか提言して連載を締めくくりたいと思います。

(1)データを顧客体験の理解と本質的なサービス改善につなげよう
企業による努力の量や成果を集計して確かめるだけでは、サービスの本質的な改善にはつながりません。成果がなぜ上がったのか、下がったのかの要因を理解し、適切な対策を実施するためには、どのような人が何を期待して企業に関心を持ち、どんな体験をした結果、心理や行動は変化したのか、まで理解する必要があります。

さらに、アナリストとしては、数百年単位で進行している人権尊重の流れを踏まえ、企業やシステムの都合や過去の経緯ではなく、顧客視点を重視するサービスを実現するためにデータを活用できるようになるべきでしょう。「CX」や「DX」は、コンバージョンを高めるためのテクニックではありません。流行りのシステムを導入すれば業績が回復するわけでもありません。顧客と企業の望ましい関係、理想の状態を明確にし、理念や戦略、体制、評価体系、ITシステム、日々の業務の進め方などに反映していく必要があります。

現場だけでは対応しきれない大きな話ではありますが、小手先の改善に終始しているようでは、グローバルの競争に取り残されていく一方です。顧客データを扱えるアナリストは、データから顧客を理解できる、CXの本質的な改善は長期的には企業に利益をもたらす、と客観的に示せる立場にいるはずです。この有利な立場を利用し、企業や業界、社会をより良い方向へ導くような経営判断を促すことにも力を注いでみては如何でしょうか?

(2)定性的な調査や分析も併用して顧客を理解する
プライバシー保護がさらに強化されるということは、全量データの分析や活用は不可能になっていく、ということを意味します。個人の権利が尊重されると、取得できるデータは減っていきます。検索キーワードやIPアドレス、アクセス元地域のように取得自体がNGになる項目が増えるだけでなく、オプトアウトやセキュリティポリシーで完全にデータを取得できないことも増えていきます。プライバシー的にグレーなデータを含む全データを取得・活用できていたのは過去の一時的な異常状態でしかないと潔く諦め、顧客データはサンプリングされたデータである、という新しい現実を受け入れる必要があります。そのため、成果の確認は基幹システムや広告ツールで行い、Webの分析は顧客理解とサービス改善を主目的とする、定性的な調査や分析も併用する、などの方針変換が必要です。

ただし、減るデータもあれば、増えるデータもあります。GA4の進化が示したように、今後はページビューに限らず、顧客の心理や行動の変化を捉えるために多様な「イベント」を定義し、Webに限らずあらゆる接点で顧客理解につながるデータを取得するための努力が必要になります。また、それらの分散されたデータを統合することも、ますます重要になっていくでしょう。

(3)アナリストは自分の立ち位置を明確にしよう
Facebookの診断アプリで不正入手したパーソナルデータをフェイクニュースのターゲティングで悪用し選挙結果に影響を与えた疑惑のあるケンブリッジ・アナリティカ事件が露呈したように、データを武器として使うことができ、人や国の将来にさえ影響を与え得る立場にいるアナリストやマーケターには、高いモラルが求められるようになりました。CXやプライバシー保護の流れを受けて、自分はどうしたいのか?組織の目標を最優先したいのか?世の中を良くしたい企業を応援したいのか?地方と都会の差を埋めることを優先したいのか?環境問題にどう貢献したいのか?自分の過去の知識とスキルをベースに現状維持したいのか?常に新しいことに挑戦し続けたいのか?

参考文献:
ケンブリッジ・アナリティカ社問題、その根深い闇 - 前嶋和弘|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
ケンブリッジ・アナリティカ社めぐる疑惑 これまでの経緯 - BBCニュース

この答えは人それぞれであり、正しい答えは存在しませんが、変化への対応を先延ばしにしたり、受け身で流されたりするのではなく、自分のスタンスを明確にし、かつそのスタンスを貫くことで、期待値に合った業務に集中でき、自身も周りもハッピーになれることでしょう。2021年は大きな変化が始まる年です。コロナ禍を受けてステイホームで小さく生きるのか、それとも、これを転機として20年先を見据えて一歩を踏み出してみるのか?決断が迫られています。

さて、次回以降では、より具体的な事例や手法を紹介していきます。更新が不定期になるので、通知をメールで受けられるニュースレターが便利です。登録はこちらから。

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清水 誠 Makoto Shimizu

チーフ アナリティクス オフィサー(CXO)
組織のデジタル化を推進し続けて25年。UXの開拓、IT部門の社内改革、マーコム部門のデジタル改革、楽天におけるWeb解析の全社展開を経て2011年に渡米。ユタ州にてAdobe Analyticsのプロダクトマネジメントを担当した後、2014年に帰国し電通レイザーフィッシュ(現電通アイソバー)に参画。カスタマーアナリティクスやコンセプトダイアグラムを提唱し、その実践や普及の活動をしている。2013年Web人賞受賞。「清水式ビジュアルWeb解析」著者。

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