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2020.12.25

「いま再び考える、心の動かし方」 〜AW2020ASIA イベントレポート〜

新型コロナウイルスによって今まさに直面している課題や世界に広がる根深い問題の数々をどう解決するか? このことは、マーケティングや広告、メディアやテクノロジー、クリエイティブなど、あらゆる領域に携わる人にとってもメインテーマになっています。
10月14日・15日に開催された「Advertising Week 2020 Asia」でも、「アフターコロナにおいてどのようにビジネスを再び成長軌道に乗せるか?」といった、業界にとっての “難題”が取り上げられました。

そんなイベントで、電通グループでDX(デジタルトランスフォーメーション)やCX(顧客体験)を担う電通デジタルと電通アイソバーの2社は、変化が加速する中でも置き去りにしたくないクリエイティビティや生活者視点について、「優れたCXはMotivationとFrictionlessでできている」「心の中で旬になりつづけること」「心を動かすために、これから大切にしたいこと」という3つの軸を中心にセッションを行ないました。本稿では、その内容をお伝えします。

電通デジタルと電通アイソバーの違い

セッションの冒頭、電通デジタル 代表取締役社長執行役員 川上 宗一氏は、「電通デジタルは、電通内のデジタルセクションを分社化し、グループ内のデジタルマーケティングを担う会社を統合して誕生した。事業は大きく3つあり、ひとつは電通グループ内でデュアルファネルマーケティングと呼ぶ『次世代デジタルマーケティングの推進』。もうひとつは『ITプラットフォームの構築』。最後に『DXコンサルティング』だ」とし、それらが有機的につながることでビジネスを推進している、と自社を紹介。

ついで、電通アイソバー取締役 田中信哉は、「テクノロジーとクリエイティブに強みを持つグローバルのIsobarと、日本の電通の総合力を組み合わせたのが電通アイソバーだ。『CX Design Firm』として、デジタルのタッチポイントのすべてを統合設計して、クリエイティブによってエグゼキューションし、ブランドと生活者の関係性を長く気持ちのいいものにしていくという目標を掲げている」とし、「電通デジタルと電通アイソバーはタッグを組んで仕事をすることも多い」と、両社の繋がりを解説しました。

優れたCXを概念化すると「Motivation」と「Frictionless」が存在する

電通アイソバーでは、生活者を購買やブランドのファンになるというゴールにエスコートする「心を動かす Motivation」と、そこに至るまでのあらゆる障壁をなくしてたどりつきやすくする「障壁を取り除く Frictionless」の2つの矢印でCXはできている、との考え方を示しています。また、大別すると、前者の「Motivation」は広告が得意とする領域、後者の「Frictionless」はマーケティングやテクノロジーが得意とする領域と区分しています。

電通デジタルの川上氏は上図に示した「Motivation」と「Frictionless」について、「2つの矢印はどちらも大切だ。その上で、両方がブランドに貢献できているか?」と、問題提起しました。

続けて川上氏は、「この『優れたCX』を概念化した図を見ていると、CXとは結局のところ、自分がひとりの消費者に立ち戻ったときに、どういう商品やサービスを使いたくなるか? というシンプルな話に行き着くように思った。
消費者が、このサービスはおもしろそう、と思わなければ意味がないし、実際に使ってみて使い勝手が悪くても意味がない。消費者側の目線に立ってCXを設計していくにあたって、『Motivation』と『Frictionless』の2つの軸でそのことを表現しているところは分かりやすい」とし、「広告会社がこれまで主にやってきた仕事は、ともすれば『納品主義』に偏りがちだったかもしれない。しかし、上図には、消費者が毎日使ったり興味を持ったりする、オールウェイズオンで心を動かしながらより快適さに近づいていくように追求していく、という意味合いが含まれているのだと感じる。これが今日のデジタル時代が過去とは一番違うところだ」と感想を語りました。

田中も、「確かに、昔のマーケティングでは、買ってもらったり、広告も打って終わりというふうに考えられてきた。しかし、今は『Motivation』と『Frictionless』の矢印を常に意識しておかなければならない。そして、無意識に生活者の中に溶け込んでいくことが何よりも重要だと考えている」と応じました。

ブランド作りに「Motivation」と「Frictionless」は不可欠である

ブランドを作る際、「Motivation」と「Frictionless」はどちらも不可欠な要素である、と整理した川上氏と田中。どちらか一方だけを整えても望ましい姿にはならないという理由について川上氏は、「『Frictionless』だけでは最初の動機、つまり、新商品の魅力的や新サービスのおもしろさを知ってもらうことはできない。しかし、それを使い続けるという力学を線で捉えたとき、やはり『Frictionless』な状態が作られなければならない。このことはブランド作りにおいてとても大事なことだ」としました。

これを受けて田中は、「生活者は、企業がどのようなスタンスで世の中を振り向かせMotivationするか?さらに、Frictionlessを用意して生活に無意識に溶け込んでくるか? という両方が組み合わされたブランドの振る舞いを見極めて、『これならば』と認めた製品やサービスなどを使い続ける」とし、ブランドと生活者が繋がりを形成する上でいかに「Motivation」と「Frictionless」が重要であるかについて強調しました。

次に田中は、「このところ『Motivation』を司るクリエイティビティが置き去りにされていないか?」と疑問を呈しました。そして、「いま、クリエイティビティは制作物や表現物だけではなく、手法や着眼点に発揮されなければならない」との考えを示しました。この発想は、「モダンクリエイティブ」とも言えるでしょう。

本当のブランディングのゴールとは何か?

川上氏は、「今の時代と今の消費者たちとにダイレクトにリンクしていくことが一番大事だ。『今、感動したい』あるいは『今、使ってみたい』という気持ちが起こった瞬間にブランドを想起したり、感じたりするかどうか?ということだと考えている。逆に、消費者が『今は感動する時ではない』というタイミングではモノやサービスは売れなくなっている。つまり生活者の心の中で旬でありつづけることが大切だ」と指摘しました。

これに対して田中は、「自分が経験した国産高級車ブランドのクライアントでは、あらゆる角度から世界観を伝えることに注力した。表現物だけではなく、カフェや店頭、ダイレクトメール、イベント、ソーシャルメディアなど、ブランドに対する知覚は、総合的なもの。その上で、少し若い世界観を醸したり、高級なイメージというより遊び心やアートとのつながりも重要であった。それは生活者の心の中で旬でありつづけることを目指していたのだと思う」と、これまでのクリエイティビティについて振り返りました。

また、「いま消費者の心を動かす」という視点で考えると、「デジタルマーケティングという言葉は普段からよく接するが、デジタルブランディングという言葉は聞かない」と、田中。

この問いについて川上氏は、「私なりの解釈だと、まずデジタルの世界でブランドと言うと、ブランド領域のことを指すことが多いように感じる。それは例えば、YouTubeや動画を用いるといった、ファネルの上位部分のことで、ブランド領域あるいは認知領域の部分に関わることとして語られている、という意味だ。しかし、企業側が考える商品にとってのブランディングとは、領域の話ではなく、その商品が消費者にとって強く愛すべき存在になって快適に使えるものでありつづける、ということを指す。
それが本当のブランディングのゴールであり、それを実現するためにはあらゆる手法を使っていいはずだ。その違いを理解せず混同している人は多いように思う。
本質的にブランドは、あらゆる顧客接点で『好き、気持ちいい、使い続けたい』と思わせることの積み上げであり、消費者から見ると、企業が認知領域で訴えたものでも、購買フェーズの人を後押しするために訴えたものでも、同じようなものだ」と、ブランディングについての考え方を示しました。

一方の田中も、「ブランドの振る舞い全体で消費者は『どのようなブランドなのか?』を知覚していく。しかし、企業やそのパートナーは、ともすれば企業側の都合で物事を進め、顧客を置き去りにするようなことがあるように思う。ブランドのフィロソフィーを高らかに叫ぶだけでもダメだし、反対にコンバージョン主義でもそれは叶わない。ブランド全体の振る舞い。そのことに思いを巡らせ、立ち返って考えることは大切だと感じる」としました。

この田中の指摘に対し、川上氏は、「企業の中でも、宣伝を担当する部署とブランド関連の部署、CRMの部署が違っていて、同じ商品にもかかわらず違う側面からブランドを育てようとしている場面が少なくない。そうした時、それぞれの部署と話をして、『このブランドのためにはこうしましょう』と言う相談相手として広告会社が間を取り持つ方がうまくいくのではないか、と考えている。
電通デジタルでは企業の中にスタッフを常駐させていただいて、その役割を果たすようなこともしている」と、述べました。

脱・均質化〜「Frictionless」が叶った先で重要になる「Motivation」

田中は、前掲の川上氏の発言に対し、冒頭に示した2つの矢印で抽象化したCXの図を再び示しつつ、「『Motivation』は宣伝部のような部署が、『Frictionless』はデジタルマーケティングやシステム部門が担うことが多く、電通アイソバーでも双方の部署とやりとりをすることが多い。しかし、この2つの部署の境界線をなくさなければ良質なCXを実現したり、ブランドを成長させたりすることはできないと考えている。2つの部署でKPIが違っていたり、組織のカルチャーが異なることを克服し全体を見据えた上で、2つの矢印を成立させることが重要だと思う」と語りました。

田中が指摘した通り、「Motivation」と「Frictionless」のそれぞれを司る部署が最終的なゴールを見据えて、消費者がそこにスムーズに向かうように自分たちの役割を果たすことは大切なことです。また、特にテクノロジーの進化によって「Frictionless」な状態を整えることは以前に比べてより難しくはなくなってきているとも言えるでしょう。

では、「Frictionless」な状態が整った後に、企業は消費者にブランド全体を他社のそれよりもより長く愛してもらうにはどうすればいいのでしょうか?

川上氏はこの答えを明らかにするヒントとして、「脱・均質化」というキーワードを挙げ、次のように語りました。

「デジタルは、ひとつの正解に向けてムダを省いていくことを得意としており、それを活用することで企業の活動の効率を上げていくことに貢献してきた。しかし、デジタル化が進んでいき、あらゆる企業がひとつの最適解を目指すようになると、均質化していくことになってしまう。そうなると意外にモノやサービスは売れなくなると見通される。均質化していくことで消費者にとっては『どれも同じに見えるから選べない』となってしまうわけだ。これは、最適解を出そうと努力して正解もしているのにモノやサービスが売れないという矛盾が生じるという意味でもある。
最近、そうした状態を『最適化のパラドックス』と呼んでいるが、まさにこの課題が近々出てくると思っている。そうした状況でやるべきことは、最適化を進めながらも消費者の心の中に旬を作ることではないか、と考えている。このことを、『脱・均質化』と呼んでいる」。

田中もこの意見に賛同し、次のように締め括りました。
「テクノロジーによってパーソナライズが可能になっているが、それが進みすぎると企業や商品との偶然の出会いは生まれづらくなってしまう。例えばインスタグラムは自分が選んでフォローしたユーザーらの投稿が並び、広告も含めて自分に最適化されているにも関わらず、自然と高速でスクロールしながら見ているはずだ。こうしたことから、人間は、最適化されている中にも必ず偶発的な出会いを求めている。
つまり、さきほど川上さんもおっしゃったように、マーケターがひとつの答えを追い求めすぎることは、過度の均質化やパーソナライズとなり、偶発的な出会いを喪失しかねない。本来、人間は思う以上に偶発的な出会いを経験することで人生を豊かにしている部分があるのではないだろうか?そこを奪ってしまってはいないか?という疑問も出てくるだろう。
今後は、私達自身もひとりの生活者に戻ってみて、送り手の都合ではなく、純粋に何が楽しくて心地いいか? ということを、電通アイソバーと電通デジタルの両社で引き続き議論していきたい」。

川上 宗一
株式会社 電通デジタル 代表取締役社長執行役員
電通マーケティング・プロモーション局、営業局に所属し、自動車、消費財、情報通信、エンターテインメント企業を担当。新商品やコミュニケーション開発、手口ニュートラルなコミュニケーションデザイン、音楽・映像・アニメ・テクノロジーを活用したコンテンツマーケティングを推進。2019年から電通デジタルに参画。人を基点としたデータドリブンマーケティング「People Driven MarketingⓇ」を推進。執行役員兼アカウントプランニング部門長、アドバンストクリエーティブセンター長を経て、2020年より代表取締役社長執行役員に就任。

田中 信哉 Shinya Tanaka

電通アイソバー株式会社 取締役
1998年株式会社電通入社。クリエーティブ局のCMプランナーとして、多くのクライアントの広告制作に携わったのち、クリエーティブディレクターに。主な仕事として、LEXUSの広告プランニングおよび全体ブランディング、資生堂の複数のブランドの広告プランニングや商品戦略立案がある。広告領域を超えてクライアントのインターナルマーケティングやCEOのブランディング、事業コンセプト立案なども手がける。電通の経営企画局を経て、2017年より現職。

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