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2020.10.14

ファッション、コスメブランドのCXのニューノーマル〜拡張するソーシャルプラットフォームの活用〜

新型コロナによる影響で、生活者のライフスタイルや消費行動が大きく変化しています。特に、外出自粛マインドが浸透する昨今、店舗やイベントでの集客や接客などリアルを軸にした顧客体験(CX)を展開していたブランド企業は、その舞台をオンラインへとシフトするよう迫られています。

こうした流れを受け、新たな顧客接点を拡大するためにいち早く施策を打ち出し始めたのが、ファッション・コスメブランド業界です。

これまでは主に一過性のキャンペーンで用いられてきたLINEやInstagram、Tiktokなどのソーシャルメディアを、認知獲得から購買、顧客のロイヤル化までの様々なフェーズをまたいでトータルなCXを実現する”ソーシャルプラットフォーム”として活用する数々の取り組みは、ポストコロナのコミュニケーション戦略と今後求められるCXを探る上で、業界を問わず、大変示唆に富む先行事例だと言えるでしょう。

そこで、電通アイソバーは、ファッション・コスメブランド業界において、どのようなソーシャルプラットフォームの活用例があるのかを丁寧に紐解くウェビナーを開催しました。本稿ではその概要をレポートにし、具体的な事例の数々を紹介する記事を取り上げます。

新型コロナによるビジネス環境の変化を整理する

電通アイソバー エクスペリエンスプランニング部 プランニングディレクター 生駒 知子は、冒頭のセッション「ポストコロナにおける生活者の行動の変化と、今後求められるCX」で、新型コロナウイルスが社会全体、生活者それぞれに及ぼした影響について、データをもとに改めて解説しました。

その上で、新型コロナによる変化のうちライフスタイルとして定着する(=ニューノーマルになる)事柄を以下3点にまとめました。

【生活者にニューノーマルとして受け入れられる事柄】
1.    今後も不要不急の外出を控える傾向が定着。
2.    EC利用頻度の増加定着。
特にファッション、コスメのEC購入率は高まる。
3.    生活者のSNSの接触時間が増加。
ニューノーマルでは、SNS上での情報が最も購買に影響を与える。

※新型コロナウイルスが社会全体、生活者それぞれに及ぼした影響に関するより詳細な分析はこちらからご覧いただけます。

このような変化は、流通小売業や飲食業などに直接的な影響を及ぼすと想像できます。
特に、今回取り上げたファッション・コスメブランドにとっては、マーケティングや販売のあり方を変えなければ立ち行かないことを意味すると言えるでしょう。企業の中にはすでにeコマースの強化やリモートショッピングといったオフラインの施策に力点をシフトする動きもあるようです。

確かに、前述の施策は、ポストコロナにおいて有効な顧客との繋がり方だと言えます。
しかし、エクスペリエンスデザイン本部 シニアヴァイスプレジデント 潮田 健一郎は、
「コロナ禍によって様々な課題が浮き彫りになっており、eコマース強化やリモートショッピング対応などによってそれぞれに対処していると考えられるが、その施策が断片的になっている感もある。もっと社会全体の変化を網羅的に捉える必要があるのではないだろうか?」と、投げかけます。

例えば、外出自粛時に比べ、外出の機会は増えるかもしれませんが、以前のように何の気兼ねもなく出歩くまでになるには相当な時間を要するでしょう。

そうだとするなら、「銀座のようなファッションブランドの店々が立ち並ぶ街に出かけてウィンドショッピングの途中で今まで知らなかったブランドを発見する」といった生活者とブランドとの出会いの機会は確実に減少すると見込まれます。
一方、ブランド側にとっても、「店頭で商品に触れてもらえない、新商品発表などの折にプレス関係者を呼んでイベントを展開して取り上げてもらうよう働きかけることもできない、メイキャップ体験も提供できない」といった、マーケティングの“できないづくし”状態が続くことになると予想されます。

このような「障壁」をなくすために、 “オフラインを補完する存在”と位置付けていたデジタルを捉え直し、施策の根本を見直すことが必要であり、それがポストコロナのマーケティングを考える上での第一歩になる、と言えます。

オフラインで完結するカスタマージャーニーが必要

今後、一時期よりはリアルの場を活用できるとしても、オンライン上だけで完結するカスタマージャーニーを描くことは中長期的な事業成長に資することになると言えます。

そのため、「最も顧客と接点を持ちやすいと考えられるソーシャルメディア」を断片的に運用して顧客との接点を作ることだけに注力したり、eコマースだけに集中するといったことではない、これまでオフラインで行なってきたのと同じスケール感でこれからのマーケティングを再考していくことが重要になってくる、と考えられます。

しかし、「オンラインだけで完結するカスタマージャーニー」を描くことは、多くの企業にとって新たなチャレンジだと言えるでしょう。
そこで、オンラインにふさわしいCXとは何かを把握し、自社にとってのカスタマージャーニーはどうあるべきかを再考する機会が必要だとの思いから、先進企業の取り組みを以下のようにフェーズごとにまとめました。

オフラインからオンラインにシフトするチャレンジはすでに始まっている

「ファッション・コスメブランドによる、様々なデジタルコミュニケーションの取り組み」と題したセッションでは、オンラインで、認知・エントリー→検討→購入→顧客のロイヤル化という4つのフェーズそれぞれにおいてソーシャルメディアをプラットフォームにして顧客と関係性を築こうとするファッション・コスメブランドの事例を取り上げました。

●  認知・エントリーフェーズで重要と考えられるCX(顧客体験)

顧客とブランドがソーシャルメディアでの接点を増やしていく今日、従来型の“一方通行”な情報発信ではなく、顧客が「接し続けたい」と感じるようなエンターテイメント性を持ち、かつ途切れることなく更新し続けることができるコンテンツ量を確保することは極めて重要です。

そうしたことから、ブランドが持つ世界観などを伝えられるミュージックプレイリストやゲーム、読み物や文化的なアートなどを投稿する例が多く見られるようになっています。

こうした取り組みについて、「従来なら屋外広告のグラフィックなどで憧れや世界観を伝えてきたブランドが、興味関心と生活者の動線が合致することで反応が高まるソーシャルメディアで発信する内容としてふさわしいものを考えた結果だと思われる」と、電通アイソバー エクスペリエンスデザイン本部 コミュニティデザイン部 シニア コミュニケーションデザイナー 飯村 玲香は解説しました。

そして、「これまで、オフラインで実施していたパーティーやショーなどを通じて華やかな世界やステータスを存分に伝えていたが、ソーシャルメディアでそうした言葉に表現しづらい雰囲気をどう醸成し、生活者に触れてもらい、それをきっかけにファンになってもらうか? という新たな課題に向き合う必要がある。
顧客との接点量を増やすためのコンテンツの検討と確保、プラットフォームを問わず多角的にアプローチしてブランディングすること、という2つの軸で施策を考えていくことが大事だ。『幅と深さ』がキーワードと言える」と、ニューノーマルでの認知・エントリーフェーズのポイントを言い表しました。

認知・エントリーフェーズでの事例:MONCLER、CHANEL、GUCCI、MARCJACOBSなどが展開する事例をご覧いただけます。

●  検討フェーズでのCX(顧客体験) のニューノーマル

ファッション・コスメブランドでは従来、店頭のビューティーコンサルタント(BC)たちがこのフェーズにおいて中心的な役割を担ってきました。しかし、これまでも触れてきた通り、リアルな接点を持つことが難しい今日、ここもオンラインにシフトすることが求められています。

先出の飯村は、「オンライン上であの手この手で擬似体験ができるように工夫しているケースが多い。バーチャル体験のバリエーションも増えている。共感してくれるファンを多く抱えるインフルエンサーは、ファンにとっては“自分に似た存在”と感じられているわけだが、そのインフルエンサーの話を見て、『着てみたイメージ、身につけたイメージ』を疑似体験できるようにタイアップしたり、テクノロジーを活用して実際に自分が試してみたイメージを確かめる『バーチャル・トライ・オン』のような取り組みをしている企業もある」といくつかの事例の傾向を分析しました。

そして、「バーチャル試着やバーチャルメイクなど疑似体験の機会を増やし、『実店舗での体験』に近いものを提供することがソーシャルメディア上でのCXを考える上で重要な視点になる。一方、BCの方々が店頭で顧客と接して1 on 1で説明してきたことを動画で紹介したり、zoomやテレビ電話などのツールを用いてカウンセリングを実施するなど、オンラインタッチアップも顧客満足度の向上に役立つと考えられる。
そのような2つの軸でブランドへの没入感を感じる体験をもたらすことができるかどうかが成功の鍵になるだろう」としました。

検討フェーズでの事例:イブサンローランやDIOR、エスティローダー、イプサによるソーシャルメディアの活用例をご覧いただけます。

●  購買フェーズでのCX(顧客体験)を考えるにあたっての2つの軸

いざ、検討してきた商品を買う、という行為は最もテンションが上がる体験です。それは、ただ「欲しかったものを手にする」だけでなく、 ブランドと自身が“リアルに”繋がるような、ある種のオーナーシップを感じる瞬間でもあると言えます。そのような特別な瞬間をオンラインでどう演出できるか? という問いに答えることが購買フェーズのCXを考える上で大切であることは言うまでもありません。

これについて飯村は、「オフラインで『購入』する際の気持ちの高まり、その質や深さをどうオンラインで実現できるかは模索していくしかないことだ。しかし、これをネガティブに捉えるのではなく、例えば、オンラインの方が素早く欲しいものにアクセスできる利便性と選びやすさでは優位性がある、といったことにも目を向けてみてはどうかと思う。情緒的な豊かさと購買に至るまでのスピード感という2つの軸でCXを検討していく必要がある」と、まとめました。

購買フェーズでの事例:CHAUMET、グッチ、H&Mなどが取り組むソーシャルメディアを利用したチャットコマース等の事例をご覧いただけます。

●   顧客のロイヤル化フェーズで重要なCX(顧客体験)の視点

これまで招待制のイベントへの参加やおなじみの店員と個人的な繋がり、特別なもてなしを通して既存顧客・上顧客とのロイヤルティを保ってきたとするなら、オンラインでこれを“再現”することは困難に感じられるかもしれません。
しかし、このフェーズはオンラインだからこそできることも多々あると考えられます。

飯村は、「既存顧客へより充実したオンラインカスタマーサポートを展開したり、MAツールを活用して最適なコミュニケーションを実現し、顧客との関係性を育成してロイヤリティを高めていったり、過去のやりとり等をデータ化して顧客の嗜好や製品購入状況などをより可視化させていつでもその顧客にぴったりな対応を実現することもできる。1 to 1のデータ・ドリブンなカスタマーサポートの充実化をスムーズに叶えられるようになるのではないか?」と指摘しました。

このように、オンラインだからこそテクノロジーの力を借りて一気通貫したCXをより高度に展開できる点では、コロナ禍の影響の有無や業界の違いを問わず、対応していくべきことだと言えそうです。
顧客との接点を広げ(タッチポイントを増やす)、顧客一人ひとりに合ったホスピタリティを果たすことがこれまで以上に実現できるようになり、それに着手しているかどうかがビジネスの成長を左右することになるかもしれません。

ロイヤル化フェーズの事例:グッチやルイヴィトン、MULBERRY、プラダの取り組みを詳しくご覧いただけます。

ソーシャルプラットフォームならフェーズという枠を越えたCXも

先出の潮田は、「オフラインだからこそできた豪華さ、豊かさはある。けれど、物理的な距離や時間的な障壁をショートカットできるのがオンラインならではの良さだ。例えば、これまでなら認知フェーズからロイヤルカスタマーになるまで長い期間が必要だったが、最良のCXによってそれが短縮される可能性も大いにあると言える。
テクノロジーの力で実現できることもかなり増えるため、様々な障壁を排除して顧客にFrictionless(障壁のない)CXをもたらそう、という発想が大事だ」と述べました。

確かに、お気に入りのインフルエンサーが紹介していた商品に関心を持ち、オンラインショップで買ってみる、というような従来にはない時間的・物理的にFrictionlessなCXはすでに提供され始めています。

また、最後に、「認知から購買までのフェーズがシームレスになるのがソーシャルコマースの特徴だが、一方で、インフルエンサーのファンをブランドの顧客にする、という新たな施策を考える必要も出ている点には注意が必要だ。
これまでのように4つのフェーズを順番に体験したわけではない“顧客”に対し、本当の意味での顧客になってもらうために必要なCXは何か? 例えば、購買の後に認知のフェーズで用いていたコンテンツに接してもらうような機会を設けることも検討の価値があるだろう。4つのフェーズという考え方はこれまで通り重要だが、フェーズをショートカットしたり逆戻りしたり、ということも含めてカスタマージャーニーを考え、テクノロジーを生かしていくことも必要だ。それがCXのニューノーマルになるだろう」と締めくくりました。

オンラインならではのカスタマージャーニーやソーシャルコマースの特徴などについて、より詳しくご確認いただけます。

潮田 健一郎 Kenichiro Ushioda

エクスペリエンスデザイン本部  
シニアヴァイスプレジデント
コミュニケーションプランニング、ストラテジックプランニング領域を主に20年以上の経験。ブランドのマーケティング戦略、クリエイティブ開発、商品開発など幅広い領域の経験を生かした統合的なプランニングが強み。また2012から2017年までの5年間、中国・上海で日系、中国系、欧米系のクライアントを多数担当。
2018年から電通アイソバーに参画。

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生駒 知子 Tomoko Ikoma

エクスペリエンスデザイン本部  
プランニングディレクター
デジタル領域のマーケティングや制作経験を経て、各企業のソーシャルメディア導入から現状分析、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーション支援に取り組む。
また社内外で企業や公共団体のSNSコンサルティングや研修セミナーの講師などを多数実施。2015年より現職。

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飯村 玲香 Reika Iimura

ニューヨークに拠点を置く出版社で、デジタルファッションエディターとして2014年よりキャリアをスタート。編集・PRの経験を積んだのち、2017年1月にソーシャルメディアプランナーとして当社に参画。外資系企業を中心に、ラグジュアリーブランドや大手航空会社のコンテンツマーケからデジタルコミュニケーション設計を中心に幅広く従事。

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