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2020.08.21

店舗の行動データに基づく体験設計の可能性

コロナ禍に伴い、店舗は、かつてと異なるアプローチが求められている。

店舗側には「3密」への対応が要求され、新型コロナウイルス感染拡大前のビジネス環境とは視界が一変した。消費者側には、コロナのリスクを背景に、店舗に気軽に立ち寄る機会が減っているという現実がある。
こうした流れもあり、多くの店舗では、今まで以上に”体験”への意識が強くなっている。モノを売る場から、その場ならではの体験を提供するという考え方への転換だ。

この考え方は、今始まったものではない。たとえば体験を重視している事例としてイケア・ジャパン株式会社(IKEA)は分かりやすいだろう。
郊外にあるIKEAでは、大きな面積を使って、様々な世代に向けたインテリアコーディネートが行われており、体験の中で商品の価値を発見できるという機会を消費者に提供している。広い面積を活かし、その場で在庫をピックアップし、持ち帰りか配送かを選ぶという、体験と物流がセットになっている点もユニークだ。
コロナ禍の中、原宿にオープンしたIKEAは立地と客層を踏まえ、ターゲットを若年層にフォーカスしている。配送は大型商品のみにしている等の違いはあるが、ポイントは、ここに訪れる人と場所を踏まえた上で、体験づくりにフォーカスしている点にある。

消費者にとって、店舗が気軽に立ち寄れる場で無くなっている今、店舗側には、その場所ならではの価値が求められ、その価値を提供できている場に人も集まる、という流れが生まれている。

これまでの店舗におけるデジタルの課題

私自身、店舗でのデジタル施策を多数担当しており、AIや統計データを活用し、そのヒトならではの商品をオススメするシステム、壁面にタッチセンサーを設置して購買チャネルにするサービス、店舗とSNSをつなぐ体験施策等を実施してきた。

※ミナトホールディングス株式会社と共に、2016年に行われた販促EXPOへ出展。商品化したもの。

これらは、確かに施策としては有益だ。その場での体験の結果、消費者のココロを動かすことで、購買につなげる、SNSでの継続的な接点を作る等、目的に応じた価値を提供してきた。 しかし、どこかひっかかりがあったのは、店舗のデジタル体験の可能性はもっと本質なところにあるのではないか、ということだ。
その疑問の根底には、デジタルと店舗が同じ空間で行われておりながら、どこか離れた存在にあるという感覚があった。

個人的に感じている課題は以下3点だ。

① 統計データやAIを活用した施策では、体験者の3割が購入するといった具体的な数字を出すことができた。しかし、それは大きなフロアの中での一角のみでの体験に過ぎず、その広いエリア全体をデジタルで最大化することで、さらなる結果を出せるのではないか?
② 店舗の中でのデジタルは、店舗全体の中で一つのパーツになっており、店舗のビジネスの根幹から取り組むことで、あらたに実現できる体験があるのでは?
③ 店舗とECがセパレートしていて当然という前提になっていること。

 

つまり、店舗体験全体を踏まえた上でのデジタルトランスフォーメーションはまだまだこれからであり、ここを最適化することが、消費者と店舗側、双方にとっての明るい未来につながるだろう、というのが今の課題意識だ。

店舗のユーザー行動から新たな体験を導き出す

デジタルマーケティングの世界では、アクセス解析の重要性は誰もが理解しているだろう。デザイナーが渾身の技術でサイトをデザインしても、目的に応じたコンバージョンが達成されなければ、それは誤った体験を提供していることになる。また、来訪ユーザーを分析することで、ユーザーのニーズを捉えるための仮説を立てることができ、PDCAを行う上で欠かせない。

店舗に目を向けると、体験設計において、ユーザー行動の解析はまだそれほど重要視されていないように見える。どんな人が、どのエリアに立ち寄り、結果として商品を買ったのか、買わなかったのか。それは何故なのか。このようなデータは現場スタッフの頭の中だけに存在している企業が多いのが現実だ。

この領域に着目し、国内外で先行してRaaS(Retail as a Service)ビジネスに取り組んでいる企業のデータ分析を担っているリテールネクストジャパン合同会社(RetailNext) がある。
同社の特徴は、自社開発のAIセンサーカメラにより、来店から退店までのトラフィック(行動データ)を計測し、データを見える化するソリューションを持っていることだ。もちろん、店内のマーケティング、ビジュアルマーチャンダイジングなどの効果測定データも取得できる。データがあることで見えてくるインサイトや予測の提供も行うという。

RetailNext 広報・マーケティングマネジャー 立松紘子氏に話を伺った。

ー RetailNext の テクノロジーはどういったものなのでしょうか?

読者の方が、デジタルマーケティングをされている方が多いと思うので、その方々にとってイメージしやすいコトバで説明させて頂きます。
みなさんは、Google や tableau のアナリティクスで、eコマースの来店客分析手法を導入されている方も多くいらっしゃると思いますが、それをそのまま、実店舗で行うイメージです。来店する、買い物客のトラフィック(行動データ)を、店前から入店して退店するまでの動線を自動で収集。そのトラフィックを元に、KPI別に分析。それだけでなく、データを可視化し、インサイトや予測まで出来るソリューションを提供しています。
リアルタイムで、より良い購買体験を提供する為の洞察を小売店さまに提供するテクノロジーカンパニーです。

ー 導入されている企業には、どのような会社がありますか?

現在、400を超える小売のお客さまに、世界90ヵ国でご活用いただいています。
いま話題の RaaSモデル、ショールーミングという事業者さまに、世界・日本で多数採用頂いています。
ホットトピック話題繋がりでお話すると、D2Cの本の中で取り上げられている、Casperもお客さまです。
日本でもD2Cモデルで、ECからリアルに出ようとされていらっしゃる事業者さまなどからも相談が増えています。
事業会社独自で、弊社を使ってくださっている企業さまも、世界でも日本でもいらっしゃいますし、TSIホールディングスさま、SnowPeakさまやメガネの田中さまは、日本らしい顧客に寄り添う施策にまで、弊社のデータを使ってくださっています。

ー まさに体験目線で注目を集めている企業ばかりですね。データを元に、その企業ならではの”おもてなし”をデザインした結果、ユーザーから高い評価を得られているという循環をイメージできます。立松さんは、デジタルマーケティング出身とのことですが、リアルの場に注目した理由を教えてください。

2015年頃に、OTA(米国系 オンライントラベルエージェンシー)のブランドチームで、Online と Offline 両方のマーケティングを経験しました。
アメリカの学校で学んでいた時も、とにかくデジタル世界を掛け合わせることは、ダイナミックで且つ効率の良いビジネスが出来ると既に体感済みでしたので、とにかく仕事は楽しかったです。
OTAは、商材自体がオンラインで売るビジネスモデルの会社でしたので、デジタルキャンペーンとして、例えば、Facebook や Twitter のキャンペーンの展開、LINE公式アカウント 開設からの 友達を増やす取り組みや、スタンプ配信、毎週火曜日のLINEコンテンツ配信など、色々な仕事に関わりました。
当時作成したTVCMも、もちろんのことですが、とにかく、何をするにもデータ分析に効果測定の繰り返しでした。ビッグデータも視ますが、デモグラを考えるには、多くのセグメンテーション条件を分析すること、施策を打ち、次々実装をしていきます。マーケターとしては、施策⇒結果⇒分析と反省⇒次に活かせる、常に良くできる方法を見出せていけました。
一方で、顧客満足度はどうなんだろうか?と思うようになりました。
そう思う最初のきっかけは、アプリのレビューなどに、『サービスや会社のブランドイメージと実態が違う!』というようなコメントを書かれているのを目にし、アプリのレビューでないものに関してレポートをまとめたことです。
そのうち、次第にデジタルの分析からその先にある価値観、いまで言う『アフターデジタル』の部分がやりたいなと、強く想いはじめ、リアルな場での実装のための基礎情報はどうやって集めるんだろうか?と新たなテクノロジーを探したことを今でもハッキリ覚えています。これ、横ぐしを刺した、CXが描けるのでは?考えるようになりました。
5年前の夏に、初めてRetailNextと出逢い、視えないけれど、視たいモノを視える技術を持っていることに感動・感激したことを、今でも鮮明に覚えています。

ー 自分はマーケティングというより、クリエイティブ寄りの立場ですが、見えている世界観が非常に近く、非常に参考になります。デジタルのマーケティングは既存顧客の”刈り取りや効率”に目が行きがちですが、デジタルによって、新しく作れる体験や感動があると思っていて、その可能性が店舗のデータにありますね。貴社は国内外での事例が豊富ですが、日本と海外マーケットの違いについて、感じていることがあれば教えてください。

弊社のお客さまの多くに、いわゆる世界中に展開されている、海外ブランドさまやそのブランドを誘致するショッピングモールさまなどがいらっしゃいます。また、自社の中に店舗運営部門と、EC事業部門ある企業さまも少なくありません。
それって『どちらも事業規模が大きいから、体力があるのでしょ?』と思われることがあるかもしれません。もちろん、リソースや予算の大きさも影響しないとは言えません。

本質的な部分は、どの国も、どの商習慣も、店舗だろうと、ECだろうと、弊社のお客さまの皆さまを拝見していると、とにかく社内どこの部門でも、どこの国の店舗だろうと、共通言語であるKPIをきちんと設定し、それに対して、各々の立場で、何をどのように改善すればよいのか。お考えになられています。また、『本日のトラフィック数(EC側)や入店者数(店舗側)』を、きちんと捉えることで、集客施策 や 実態の数字を真摯に捉え、買わなかったお客さまの分析、機会損失の洗い出しを徹底的にされていらっしゃいます。それにより、店舗にいらっしゃるお客さまへの顧客体験を、よりRichに、より体現したいブランドとして考えていらっしゃる事例を拝見します。

日本では、「今日の来店客数」=「POSレジを通った人数」となっている店舗運営がまだまだ多いのかなと思うことがまだあります。来店したお客さまが、必ずなんらかご購入されるのであれば、良いのですが、なかなかそうではないですよね?
単純なる機会損失だけではなく、顧客体験として不満を抱かせてしまうお店になっていないかなど含め、店内で起こっているけれども、数値化・記録するのが難しい情報を、お越しになったお客さまのお手を煩わせることなく理解することが益々必要になるのではないでしょうか。『リアル』だからできる顧客体験をブランドとして一気通貫設計するのが、日本でも進むと思っています。

ー なるほど。セミナー後のアンケートで五段階評価(5:とても良い、4:良い、3、普通、2:良くない、1:とても良くない)があったとして、アンケートでは、特に1,2に改善のヒントが隠されてますが、現時点での店舗では、購入してくれたユーザー(アンケートでいう5,4)に視線が集まっていて、それ以外は現場スタッフの暗黙知になっている、ということのように感じます。1,2のインサイトを探ることで、新たな店舗体験が生まれる道筋が見えますね。立松さんが思う、これからの店舗体験で大切にしたいことを、一点教えてください。

わたしは、小売ブランドを作る側の人間ではないので、あくまでも『有店事業者の皆さまを、心から応援する!そこに、RetailNextだから出来る価値提供があれば、何でもしていきたい!』と考えています。

個人的に、ブランドを作るコトを考えるのが大好きな目線で、質問にお答えさせて頂くとすれば、やはりブランドとしての店舗やEC、コールセンターの受付などから、細かな相談までのカスタマーサービス、在庫数・流通など、あらゆる接点で、『ブランドらしい』顧客体験を描くことが、とても重要になっていると感じています。
それを店舗体験の場面で考えると、単に『店員さんが親身だ。話しやすい。』だけでなく、リアル店舗だから第6感までひらめかせてしまいそうな、店舗体験が求められるのでは?と思います。

もちろん、日用品や消耗品で、それをしようとすると過度になりすぎるところがあると思いますが、例えば、ECでもいいし、店舗でも買えるんだけれど、何万円もするようなもので、『よく吟味して買いたい!』とか、『大事なあの人に、特別の何かを選びたい。』といったシーンなどは、これからも無くならないですよね?
そんな時は、購入プロセスで悩むことですら、結局は『納得と満足』の一部であるのが購入体験ではと思います。

店舗まで来たとしても、即購入ならないかもしれない。でも、『うわっ!』と思えるセレンディピティの連続のような体験は、何か欲しいと思う時、ECでポチポチ選ぶのではなく、敢て、『あそこに行って、体験しながらあれこれ悩んでみたい!』と思うことだと感じています。
というように、ここまで言うのは簡単ですが、真摯に取り組もうとすると、物凄い大変なことも弊社のお客さまを通じて、実感する場面に何度も遭遇しています。

以前あるブランドさまで、組織改定をし、データドリブンに切り替えられ、ビジネスソリューション事業として別会社を運営されはじめました。
データを集めビジネスの改善をするというと、ただデータを眺め、売上や資金繰りなどのお金の面を思われるかもしれませんが、そのブランドさまは、データを活かされ、ファンづくり、店舗体験を超えた日々お客さまにプロダクトに愛着をもって使って頂ける世界までお創りになられていて、お話させて頂くたびに、惹きこまれます。
また、このコロナの影響で、見通しがなかなか立たない中、店舗運営はどうするのか?と、皆さまお悩みです。

このブランドさまは、RetailNextの機能拡張してみれるようになった、店舗内の混雑状況把握のデータを活用されながら、日々の店舗運営 と 店舗のハレの日(大事なイベント日)の3密回避の一部でもご活用頂いているようです。

単に『データを使います。』ではなく、『安心と安全を届けられる姿勢』をブランドが持てる。このようなブランド体験を、きちんと徹底されているブランドさまに出逢えると、いち顧客としても益々ファンになってしまいます。
働く現場の人にとっても、安心と安全の提供が可能であるだけでなく、店員さんが来店客に、安全を語り安心を作るところまでも、結局は全て顧客体験に繋がってると思うから出来ることですよね。
日本のおもてなし精神。何も言わずとも、相手を気遣い、寄り添える力。
お客さまの想いの先にある価値観や、無意識な記憶・大事な想いまでも、汲み取れるのが、日本らしい顧客体験の提供の姿だと、感じることが多いです。
こういったものが、『もっと店舗体験ならでは。』であり、 『ブランドならでは。』になっていけるように、店舗スタッフが接客により注力できるように。『いまならば、来店して頂いて大丈夫です』と、伝えられる安心すらブランドが語れるといいですよね。

ー ブランドには各々の文脈があり、ユーザーとの接点には体験がある。それらを更に強固なものとする要素としてデータがあり、一連の流れがエコシステムになっているということですね。弊社はCXを強みとしている企業ですが、目指している世界観は同じで、非常にエキサイティングでした。今の店舗体験に必要なのは、一過性の施策だけではなく、その店舗ならではのストーリーであり、それは顧客の行動をじっくりと見つめ、アクションを行った先に未来がある。”店舗の行動データから新たな体験を作る”、このような世界観をたくさん実現させて、店舗を楽しく、ワクワクする場所に変えていきたいですね。本日はありがとうございました。

川村 健一 Ken-ichi Kawamura

プラットフォームコンサルティング部
クリエイティブディレクター
アートディレクター、インタラクションデザイナーとして活動後、電通アイソバーにジョイン。最新テクノロジーに関する知見、マーケティングの知識と、それにもとづく発想を土台としたクリエイティブを実現している。
アイソバーグループが世界各国で展開するテクノロジー・ラボ“nowlab”で、“テクノロジー×アイディアでExperiment Innovationをデザインする”というテーマを掲げ、固定概念にとらわれないチャレンジを行っている。

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